Doctor Blog

コラム

文化 慎ましやか

懐えば外科研修医としてのあの当時、外科医足るべき自分はまだまだ先にあって、その気配すら感じることはありませんでした。しかもともすれば、智に働けば角が立つ情に棹させば流される濃密な毎日、運命を肌で感じながら運命に翻弄されていたのです。
一方、外科医としての区切りを迎えた今現在、昔と異なることは、何の気配も無いはずの今後が見え隠れすることであります。そこに運命という言前はもうありません。義務とは申しませんが、闇雲ながらも残りの人生賭すべき朧気な道形を覚えることができます。そうですね、何だか烏滸がましくも都合良く、外科医時代には手に負えなかった次元を正視しようかという気にもなってくるのです。
それにしてもあの研修期は、「もしも…」と思うことばかりでございましたね。その時々に選択を強いられて、悲しい運命に終わることももちろん多くあって、「もしもこうだったら」と思い悩んでしまう…、運命という申開きばかりをしておりました。そのせいでしょうか、どうやら小生の左手には苦労を示す手相がクッキリと表れているそうでございます。しかしその分、人間というものは年食うごとに、運命とのお付き合いが上手くなっていくようです。当たり前の年の功とはいえ、でもそれでも大変不思議な気分になってしまいます。

神さまに喧嘩を売り続けたこの5年間、そして決心とも言うべき夢を叶えたこの1ヶ月、進下退上起下座上、進左退右起右座左、流石にバチが当たりました。今もまだ反省の日々を過ごしておりますが、2週間ほど掛かってようやっと、末梢血管の拡張と脳細胞への糖分の行き渡りを感じ取れるようになったのであります。そんな残暑厳しき折、とある氏神神社の境内にて神さまは仰いました。
「人の子の運命なんてわしゃ知らん。前から言っとるだろうに、全てはお前らの隨にだべさ。特に当年、九紫火星はもうちょっと大人しくしとき! なるようにしかならんのだ」
「何もそこまで冷たいことを仰らずとも…」と思うのではありますが、何しろ相手は神さまでございます。差し出された右手に少しく身体が反応してしまいます。
「じゃあ神さま、人生においてあまりにも偶然すぎること奇跡すぎること、もしくは人間が自身で生きる道を選択すること、そしてその後の人生の変容次第に関して、これらは全て運命として決まっているのでしょうか?」
神さまは含羞の微笑みを持って途端に黙されます。フウと大きな溜息を一つ、付き合いきれんとばかりに続けられたのでした。
「お前ねえ、普通神さまはそこまで面倒みないぞ。何のために神主になったんだか?この世はお前たち一人一人が主人公なんだべさ。もちろんモチを持った魂が無事旅立つところ迄はちゃんと見とるよ。でもその後は自分で生きていくんだ、俺等神さまのせいにするんじゃないッつうの。膝進も膝退も、そしてその時の膝のケガもお前ら次第、俺達はお前たちの意思にチョッカイかけるモノだけを見張っているだけなんだ。
そりゃあ無論、気分が良ければ、まあ少しは手助けすることはあるよ。でもそれは、当たり前のことが言える人間を少数派とさせないようにしているだけのことさ。直視すれば見えるものもあるし、距離があるから見えるものもあるし、人から褒められれば嬉しいし、貶されれば悔しいし、まあ何だな、将来のことは誰にも分からない…、人間界ほど愉しいものはないと思うんだがなあ。
ああそう言えば、お前さんがさあ、俺達に喧嘩売ってる最中に、外科医が考える運命について幾つか生意気なことを書いていたよな。その中の三つ目、出会いという運命だったけか、その運命だけはある意味多少は正解であるかもしれないな。当然リアルガチに、いくら邁進しようが、いくら渇望しようが、手に入らない、ままならないことは往々にしてある、それでも、自分の仕事そして行為そのものがそのまま人の形として残るようにすることが一番に大切なことなのさ、そこに誰かの粋な計らいが生まれるんだ。それは間違いないな。まあ兎にも角にも、人間が言うところの運命なんて自分で変えられるということなんじゃ…(当ブログ、教える その七 番外編 運命 参照)。
だからさあ、時代に即したとか、運命に沿うだなんて聞いた風なことをまことしやかに言うんじゃなくて、自分でどうするか考えな。ものの見事にはっちゃけていいんだよ。見境無く、恥ずかしげもなく、本日二つ目の真理を探せばいいだけのことなんだ。そうでなきゃ人生なんてつまんねえべさ。そうすれば誰かのお助けがあって、限界という名のタガが少し外れるかもしれねえぞ。
ああそうだ、あれは何時のことだったけな。昔ゴッホになりたいというオモロイ若者がいたな。流石に日本人がオランダ人になるという運命はあり得なかったけれど、確かに奴はそんな計らいでゴッホ以上になったんだ。そういった運命もあるのさ…」、神さまはニッと笑われました。

はてさて、小生の今後の人生はけっこう命懸けかもしれません。人の情こそが呼び寄せるべき運命でありましょう。

「自分の実力でね一等賞文るごどほどめぐせものはね。こった病院はただそごさあるだげでいのだ。新宿は新宿だ。やや代々木方面がら眺めるだげのごどだ」(当ブログ 羞恥心.com、あいうえおの羞恥 参照