文化 その十八 若手の生態⑦ 教育-八 ノンテク
昨年末でしたか、時間短縮に関しての留意要点を示しました(当ブログ 手術室 愛情②写真参照)。それにしても、ノンテクニカルスキルの定義は難しいですね。ネットを見てもよく理解できません。
手術とは結局、お互いが獲得した技を見せ合うようなものであります。決して誰かに合わせるものではありません。それぞれに卓越した技量が一つでもあれば、つまりそれが信頼というものですが、そこで初めて本来のノンテクニカルスキルが生まれると考えます。
例えば、看護師さんは殆どの方が実際に手術をやったことはないでしょう。麻酔かけたこともない、体外循環も恐らくないですね。しかしそうであっても、良い手術、良い麻酔、良い体外循環とは何かを良く知っている、つまりそれぞれの立場からお互いの行動を評価できる力、それがノンテクニカルスキルであります。約まるところ、チーム医療が上手くいかないというのは、もっと言えば仲が悪いというのは、単に各々の実力が足りないということかもしれません。
少し具体的にお話しましょう。
まずは若手について、
① ノンテクニカルスキル的にも若手に責任はありません。ですから心の底から客観視できる、タラレバの時代です。当然、見て学べるものは見ておいたほうが良い。例えば、お互いの手技を邪魔しない皮膚感覚とか、手術の間(マ)とか、先輩の話や格言めいたことを現場で多く感じること、これらは早めに経験すべきと思います。
② 特に最近は、まだ若いとか早すぎるとか、経験が無いからとか言って若手を制限する話しをよく聞くようになりました。ノンテクニカルスキルを作るには、早めにチームに入れて困難な手術に参加させてもいいと思います。もちろん頭の中だけですよ、でもそこに居さえすれば、早めに仕事的なIQを高めることになります。
このIQを高めようとする態度こそが外科を学問することだと思います。結果このことは付随して、手術に必要な手術以外の知識も同じ視点で得ることができます。学問の積み重ねってそんなものでしょう。
③ そして手術室に居さえすれば、緊張感が無くなるまでの時間が段々と短くなりますし、その内に緊張することがバカバカしくなる、結果、時間を短く感じるようになるのです。
一方、上司について、
① コミニュケーションとは、少なくとも自分の言いたいことを相手に分からせることではありません。そのために度々会議を開くことでもない。手術中のコミュニケーションが良いとはどういうことか、それは普通ではないことに充分対応できるということであります。じゃあどうするか、それは上司が考えねばなりません。
② ノンテクニカルスキル上での上司の仕事は、手術室内の緩和状況、それがどの程度の当たり前度なのか、要は良いのか悪いのか、もっと言えばかっこいいのか悪いのか、常に気を配ることが大切だと思います。緩和なくしてノンテクニカルスキルは生まれません。お互いの緩和心さえあれば、手術を傍から見てその流れが美しいと思えるものです。
③ 臨床では突き抜け感も大事です。つまり、経験のないことであってもやれそうと思える感覚を早めに獲得させる環境があるかどうか、実はこれこそが普通でないことへの対応という観点で最も大切であります。これもまた上司がよく観察しておくべきことであります。
④ 上司として絶対に言ってはいけないこと、それは「無駄な勉強はない」という言葉です。世の中には上司に期待されすぎて辛く思う若手が多くいるらしいのですが、この言葉は逆に、何かしら若手の負担だけを大きくさせ、若手の使命感をあやふやにしてしまう気がします。実際に無駄な勉強は沢山あるのです。そうですね、まあ取り敢えずは、つまらない顔している奴がいたら何とかしてやればいいということです。
ノンテクニカルスキルの修得はテクニカルスキルと同じです。学びたいと思う若手がいて、教えたいと思う上司がいる、それぞれに目標があるから生まれるのであります。
簡単ですが、こんなところが若手の頃を経由して今現在上司となった私の反省です。前もって知っていればもっと楽に愉しく過ごせたのではないかと思うのであります。
それにしても若手時代は大切にすべきですね。今考えると小生の外科人生は最初の15年間がすべてかもしれません。40歳以降はおまけとお釣りで生きているとも思えてしまいます。明らかにレンズの度合いが違うのです。
今回の懺悔話は、若手の皆さまのお役にあまり立たないかもしれません。しかし外科医がかっこ良く、そして心地良く長生きするための秘訣を少しだけ感じて頂ければと思います。熊本んトニーも、「爽やか男子ば目指す九州男子としては、武者ん良かせねばならんとです」と言いよらしたとです(Instagram tony labrador)。
お役に立てば幸甚です。
続きます。次回から弘前を復活させましょう。
「結局、テクニカルスキルはノンテクニカルスキルから自然発生するものです。この棚を見て改めてそう思うのであります。現在は常開放しておりますので、観覧のご希望がございましたら是非ご連絡をお願いします。時期が来れば読めばいい、そんなホッタラカシの棚です(当ブログ おせっかいな本棚 参照)」