文化 その十七 若手の生態⑦ 教育-七 テク
前回、緩和のための低侵襲についてお話しました。
そこで今回は、そのために修得すべきテクニカルスキルについて述べたいと思います。何度も申しますが、こうしておけば良かったという小生の反省事ばかりであります。
まずは若手について、
① とにかく専門バカと言われるくらいに知識を蓄えましょう。手技では上司には勝てない訳ですから、勝つには知識しかありません。当然、お前は生意気だとか100年早いわだとか言われることになりますが、それは褒め言葉と理解しましょう。ただ知識には、手術以外のものがむしろ大事ですね。脳や代謝、免疫や感染なども手術には必須の知識です。馬鹿みたいに知識を貯めるだけでも後々の糧となります。若いうちに詰め込まないことは大変もったいないことです。
② とにかく手技に慣れましょう。上手い下手があるのは当然です。下手であれば練習しましょうか。ぐずぐずするな、早く上手くやれ、手術ではこれに勝るものはありません。
③ 初めての手術に備えましょう。ただそれには資格が要ります。例えば日本の場合、外科医には手術以外にやるべき仕事が多いですね。例えば術前・術後管理はもちろん、看護師、技士、小児科医とどう上手く付き合うか、などなど…、これらは必須の無駄とも言えます。つまりこれらを上手くこなして、手術をやってもいい、次のステップへ進んでもいいと、特に看護師さんから推薦されること、これが資格取りです。専門資格などのキャリアがあるから資格が得られるのではありません。そうですね、この必須の無駄は特に大事です。若手はとにかく現場にいて多少速足で歩くことを心掛けていれば、皆からの後押しが始まるものです。外科医は人たらしであるべきです。
④ 手術の流れ、つまり手技をどう組み合わせて時間内に終わらせるかを常に考えましょう。厳しいようですが、若手は初めて行う手術だからこそ上手く早く終わる、これを当たり前と思わせるように準備しなくてはなりません。若いから初めてだからしょうがないという考えはやはり問題です。もちろん、最初は頭の中だけでも大丈夫、流れが良いから結果として早く終わるという感覚をチームの一員として感じることが大切です。そのためにも、手術室にいなければ始まりません。見て学べるものは見ておいた方がいい、目が届くところにしか手の術は届きません。そうやっていれば、必要な訓練方法は自然に出てくることになります。
⑤ この時期、上司からの叱咤激励は当然あるでしょう。でも適当に無視してけっこう、鈍感力もまた必要です。ただ、最低限の礼儀は要りますよ。聞く資格は持たねばなりません。聞く側の姿勢によって結果は相当に異なると思います。
チーム医療は、個々人の能力が高いからチーム医療となり得るのです。勘違いしてはいけません。
特に若手は、1年もしくは2年といった短期間に大きな差ができることを忘れてはいけません。若手なりのタイムリミットはやはりあります。百点取ったけど、なぜ二百点ではないのかと無意味に叱られる時期でもありますね。低いレベルをクリアして褒められてもしょうがないのです。
一方、上司について、
① 最近のマニュアルには、こうすべきということよりも、これやっちゃ駄目って事がたくさん並べてありますね。書いていないことをしたら違反にもなるようです。ただ最も問題なのは、マニュアル通りにやりました、でも上手くいかなかった…。手術を、教育だとかチームワークだとか医療安全だとか、あまりに無理に置き換え過ぎますと却って非現実的になることがあります。少し注意です。
② 医学は悲しいことが起こらないように発展してきました。その意味では少し悲しい学問と言えます。ただ大事なことは、悲しかったことだけを改善させようとしても、経験上そこから得られるものは幅が狭い印象があります。しかもあまりにこだわっていますと、逆に予想もつかないような別の大きな問題となることもあるのです。ならば、むしろ楽しく考えていくことも一つの手段ではないかと思います。例えば、この病気の子どもはこうやったら倖せになるんじゃないか、こういう工夫をしたら親御さんも我々ももっと楽になるのではないか、そのように対策を考えて道筋を決める方がよっぽど進歩の幅が広がるように思えます。そういった環境では、緩和心もまた平等に育つ気がしますしね。ですから、ほんの少しだけ天才的なポジティブであることは大切だと思います。
③ テクニカルスキルにおいて、上司の最も大切な役割は環境の整備です。添付写真は2004年の夏休み8月の手術表です。しかし今では、こんな手術計画は安全じゃないとか、ミスが増えるといったマイナスの意見が多い、安全管理的には真っ先に問題となるようであります。でも本来、このような手術環境は若手だったら誰もが欲しがるはずです。少しだけ言ってはいけないことを言いますが、手術は早い方が良い、早ければ助かる、じゃあそう訓練しましょうとか、教育には場数を踏むことが大事、じゃあそれに合わせた教育計画を作りましょうとか、働き方を本気で考えるのならば、早く終わることに努力しましょうとか…、これらは実際には患者さんにとって最も大事な安全対策なのに何故かそういう議論はありません。不思議です。
上司としては、若手個人の時間をどう作らせるかが大事です。
ただこの時間とは、手術を観るとか、勉強するとか、そんな時間ではなく、何もしなくていい暇な時間を作ってあげるということであります。それだけで、若手は物理的にも精神的にも自分の居場所を作ることができます。特に手術三昧の環境ではむしろ大切なことだと思います。
研修医は自由で責任が少ない、何故そうさせるのか。
それは外科医としての自由な時間とは何かを考えさせ、そして、外科医としての責任の意義を見出させることにあります。研修期を過ごす意味はそこにもあるのです。
続きます。次回はノンテクニカルスキルについて述べます。
「夏休みは1日に縦3~4例の手術を行います。手術を短時間かつ質高く行うことができるという若手の手術力はチーム医療に欠かせません。つまるところ、チームの総合力とTeam Buildingは若手で決まるのです」