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コラム

文化 その十六 若手の生態⑦ 教育-六 低侵襲

思い付くまま気の向くまま、今回からは右往左往しつつ、懺悔話を3回ほど続けます。お付き合い下さい。
さて、小児心臓手術の緩和という観点において、若手の教育には何が必要なのでしょう。そうですね、外科医としては何はともあれ、手術そのものの低侵襲化を目指すことが当然に必須です。
 
赤ん坊に対して、ダメージが少なく回復の早い手術を行うことは間違いなく緩和となります。
親御さんに対して、治療における心労時間をなるべく短くする、つまり速やかな治療の流れを提供して身体も心も楽にさせること、これも緩和であります。
そうしますと僭越ですが、結果として我々医療スタッフも緩和を感じることができるのです。
このような流れが小児心臓医療における緩和の基本、つまり総合的な緩和です。単純に考えれば、手術自体が侵襲である限り、早く終えることは肝要、要は時間短縮です。原始的な話ですが、緩和にはまずは低侵襲です。
 
少し具体的に申しますと、低侵襲には三つの方策があります。
第一に、困難な手術を簡単にする手段、そして簡単な手術はさらに簡単にする手段のこと。
第二に、救命が困難と考えられても、浮腫や利尿低下などを軽減させることで救命率を少しでも上げる手段。
第三に、心臓手術は全身臓器へのダメージが強く合併症の危険性もある、まずはそれらを予防する手段。そして、たとえ合併症が発生したとしても、それに耐えられるだけの身体の生理的状態を保っておく手段のこと。
即ちこれらは、基本的に嫌な部分をどれだけ楽に排除するかということであり、本来の意味での低侵襲と考えます。結果このことからは、手術の効率化だけでなく、緩和という面でも効率化が生まれます。常に低侵襲の環境を保っておくことは、小児医療の問題をなるべく少なくさせるためにとても大切なことなのです。
 
ただ勘違いしてはいけないことがあります。それは、状態を安定させ得る術を充分に知っているから、結果として、手術の効率化と緩和は安全に進化するということ、外科医本来の根っこだけは忘れてはいけません。この必然は患者さんへのサービスの本質です。
しかし今では、こういった効率化には大変否定的なご意見もございまして、時間を踏む修行というものは安全性に欠けるとの指摘をよく受けます。もちろんゆっくりと丁寧に、皆で足並み揃えてじっくりと、手術には大切なことです。とはいえ、外科医が丁寧・じっくりという意識から抜け出せずにいることは、実際の臨床の場では極めて重い罪となる場合が確かにあるのです。
手術というものは手の術と書きます。あくまでも人の手で行うもの、ですから勘違いしてはいけません。患者さんの安全性という本質を考えるべきだと思います。
 
さて、そう考えますと、総合的な緩和を得るために我々がやるべきことは自ずと決まります。次回と次々回、緩和について話しましょう。小生の反省を充分に散りばめます。
 
続きます。
 

「手術には急がなくてはならない場合が必ずあります。その時に急ぐことができるかどうか、やはり肝要です」