おせっかいな本棚 その一
《 運動の棚 》
榊原記念病院に入職後2年目、“ぺーぺ~”の研修医時代に頂いた最初の研究課題は、「心臓手術後の子ども達の運動機能測定」でした。結果必然的に、学会発表もこのテーマに関する報告が多くなり、低侵襲手術書にも書きましたように、榊原記念病院の心臓外科には“高橋という循環器小児科医がいる”と思われていたようであります。
※ぺーぺ~で思い出しましたが、皆さん、平仮名の「へ」と、カタカナの「ヘ」の区別、分かります?
それが、どうしてどうして、
この研究からは、疾患や術式別、また遺残病変の程度別に、子ども達の成長に伴うおおよそのQOLが解るようになりました。また、測定したデータを、運動時の心肺予備力として評価することで、再手術や投薬治療の必要性を運動機能的に決定する方法など、心エコーなどの従来の検査にはない新たな知見が得られました。
このことから、循環器小児科の先生方には随分可愛がって頂きまして、運動やリハビリに関する会合や学会にも参加させてもらえるようになりました。特に、東京女子医大の故高尾篤良教授が編集された教科書、“臨床発達心臓病学”には、僭越ながら諸先輩方を差し置いて、“小児の運動負荷試験”というテーマで小生の知見を書かせて頂きました。大変名誉なことであったと今でも感謝しています。(本ブログ 500例の小児心臓手術、その二 参照)
さて、その40年近く前に測定した生データですが、保存期間を過ぎても残すべく大事に保管してはいたのですが、そこは如何せん紙ベース、倉庫内の原本は判読が困難な状況となってしまいました。もちろんデータの解析結果は、既に論文や教科書としてまとめてありますが、一所懸命に測定したことを思い出しますと、多分に無念でありました。
しかしところがところが、やはり神さまはお見捨てになっておりません。(毎夜お神酒をご一緒させて頂いたご利益でしょうか…)
なんと何と、インカの野積みの第2発掘現場からそのコピーが大量に発見されたのです。クリアファイルに大事に梱包されていた為、当時の小生の書き込みはあるものの、ほぼ無傷、ウブな状態での出土です。
“先天性心疾患手術後の運動負荷試験”、循環器医療学の中ではかなりマニアックな分野ではあります。
残念ながら、その道のプロの間だけで通じるような代物なのかもしれません。
しかし、守るべき大事な子ども達、今後もその輝く将来をあらゆる観点からサポートするためにも、この出土品、榊原記念病院の重要文化財歴史遺物として保存することの意義、誠に自己中ながら、再認識される時期が必ずやって来ることでしょう。
前述したように、大きな声は出せませんので、忍び足でこそっーと“おせっかい本棚”に保管しておきます。
“断捨離不得意外科医”の真骨頂が燦然と輝いた瞬間でありました。インカの野積み、実に恐るべし、最強不滅の思し召し遺跡なのです。
続きます。
※心臓病の子ども達の運動機能評価には、心臓病の無い子ども達のデータも必要となります。当時、西新宿にあった淀橋第2小学校の先生方や多くの親御さんのご協力を得まして、新宿NSビルの榊原記念クリニックリハビリ室で、生徒さんたちの運動機能を測定しました。
呼気ガス分析を用いた子どもの運動負荷試験は、当時はまだ先駆的なものでありまして、その測定や評価方法に関しても多くの工夫改良が生まれました。
写真は当時の測定風景です。窓には、あの西新宿、懐かしの高層ビルが確認できます。