Doctor Blog

コラム

夏が来れば思い出す その六

『あーそうだった、ソダッタね…。2日前に弘前に来たんだ。
あーそうだった、ソダッタよ。昨日は岩木山と獄ロードを徘徊したんだ。
そうここは百沢温泉のお宿、座敷の童子さんにお会いしたようが気もいたしますが…、
朝寝、朝酒(はさすがに遠慮して)、朝湯と朝シャンちりとてちん、記憶を手繰り寄せながら朝餉しているのでございます。
そして今日は…、あーソだった。あやつらとお別れするんだった。』

さて読者の皆さま、本編では時を遡ります。そうそれは2日前の弘前とうちゃこ、「その一」でご紹介した弘前駅の「ねぷた」撮影時の、その少し後まで…。

弘前駅前のホテルにチェックイン、「虹のマート」でお土産を送付し、今小生は大学病院へと続く道を一人、たった独りで歩いているのでございます。
そうここは初めて降り立つ縄文の神々の里…、登山家、いや小児心臓外科医の心は、明日からの華やかな旅計画にフワフワしているのでありました。
その道なり、中央弘前駅の古駅舎を少し見学しまして、病院手前の小道を右へ、
その左前方には津軽で唯一の知人が紹介してくれた、その知人の叔父さんがやっているというお寿司屋さんがあるのです。
当然初見です。その当時の小生は既に還暦超えでしたが、その飽きっぽい性格と生来の人見知りを重々反省し、お店の皆さまにはちゃんとご挨拶、そして大人らしい受け答えをせねばなるまいと、心臓外科医らしく立派な決意をしていたのでありました。
少しだけですが心尽くしを持って、変換ソフトを用いた津軽弁の勉強もいたしております。

さてさてここは東経140度28分、東京三鷹より若干早い夕暮れ、ホテル出立時に見えた待宵のお月さまはいつのまにかそのお姿を消しておりました。
引き戸を開けるとそこには、5つの止まり木とやや広めの小上がりが…。
止まり木の左右には既に二人ずつのお客さん、さすが縄文の里であります、皆さんの逃げ足は…、いや出足は極めて早い。知人の叔父さんの大将に誘われるがまま、小生はそのど真ん中に一人、そう間違いなくたった独りで座ったのでありました。

神々の里ということは当然に御神酒の里、麦酒なんていう飲み物は野暮中の野暮…、すぐに純米ジュース(まずはもちろん田酒)を所望します。「めじゃ~」、最高です。今回の巡礼旅は、御神酒に隠された謎を探るためでもあるのです。
約15分が経過、寡黙に包丁をふるう大将、右隣の派手そうなオジさんも、左隣のお二方も、何故か心持ち微笑み、そしてうつむき加減、小さな咳払いがやけに響きます。

妙な沈黙が流れる店内…、『なんで青森、どうした青森、そこんトコよろしく青森』、
もちろん「津軽海峡・冬景色」のBGMなんぞ望んではおりませんが…、この静寂は一体?…。
むむッ?…、多少の胡散臭さを感じるものの、もしかしたらここは…、
うーん、そうかそうか、よしよし…。やはりそう、ここは縄文神々の里に建立された寿司屋…、
手酌酒を愉しみつつ、そして寿司を喰らいつつ、神々と語らい詩作にふけるあの酔白堂なのか…。
実に流石だ、全くもって「あずましい」限り…、喧騒を粋とする東京とは一味違う。
陸奥一人旅…、今小生は銀河系へのゾーンへと入ってしまったのでありました。気分は既に白楽天…。

さてさてさて、ここらで(水戸黄門風に)、「もういいでしょう。」その約10分後から始まるお約束の茶番劇、読者の皆さま、大変お待たせいたしました。
縄文の里の寿司屋、その静けさの要因とは?…、それは以下の如くでありました。
大将と右隣のオジさん、恐らくこの界隈では「名物の迷コンビ」なんでしょう、
どちらがボケかツッコミかはいざ知らず、
はたまた、どちらが人間できているかはこの際「どうでも宜しく」、
耳ダンボ&瞳孔全開にて、「目くばせ寸劇」を繰り広げていたのでございます。つまり…、
どうもヤツらは、もし小生が誰かと、つまり女性と同伴してきたら「どうチャチャ入れようか」と…、「どうイジッてやろうか」と…、手ぐすね引いていたのでありまして、
五感すべてに気合をいれた「極秘ミーティング&作戦会議」、約3日前から繰り広げていたとかいないとか…、
はたまた常連の中には、「何か賭けようゼ」と画策していた輩もいたとかいないとか…。

白楽天が既に舞降りている小生にとりましては、何とまあはた迷惑かつどうでもいい「大きなお節介」なのでありますが…、
ヤツらにとりましては、新鮮な悪巧みながら悪気を極力抑えた、自分流の真剣真っすぐな「おもてなし&お気遣い」なのでありまして…、
これでわどなは、けやぐだね」と、全世界の人々を一つの愛へとイザなうが如き、はちきれんばかりのドヤ&笑顔を誇らしげに見せてくるのです。
いずれにいたしましても、これで滞りなく、いつものお約束とともに、津軽での縄文風宴会がゆるりと始まったのでございました。

続きます。

あれはいつのことでしたか、ある初夏の日の出来事だったと思います。別に心が折れそうになった訳ではございませんが、戸隠から降りてきまして、そのまま松本経由で諏訪の地へと、これまた「縄文湯けむり三泊四日の独り徘徊巡礼旅」をやらかしたことがありました。この時も熱波でございまして、涼みに入った春宮近くの「おんばしら館よいさ」、その木落し体験装置に乗ってカラフル「おんべ」を振りまくる旅行中の3柱のマダム女神たち、これもまた縄文特有の光景かと感じ入った次第でございます。それにしても鰻屋に並ぶ人々の何と多いこと、何故か参拝を待つ人より多いのです。これもまた縄文の力でございましょうか、泣く泣く、この旅5度目の蕎麦を頂くことと相成ったのでありました。