ラインの思い出 その三
外科医が多少の自己顕示欲を持つこと、もちろん望ましいことであります。しかし、特にネガティブな問題を報告する時にはそれに加えまして、破天荒楽天家たる性格も“まま”入り用と考えます。まあ要は、顰蹙なく笑いを誘うのです。というか逆に言えば、顰蹙がなくても笑えなければやはり意味が無いのです。
(この言い方そのものも顰蹙だと思いますが、気が利いたことを油断なくやらかすのが若手というものですし、顰蹙の目をむしろ積極的に買うくらいの充実した若手の逸脱、まあ少しはあってもいいかなと言い訳をしつつ、僭越ながらここは一つ、ご容赦のほどをお願いします)
それでもたとえ、“出たとこ勝負的な筆致を用いて常識者の眉をひそめさせたり、意味不明な四文字熟語を描き連ねたりする”ような、自分だけにウケる若手特異の意味不明メールであったとしても、
上司の外科医魂(soul)をくすぐり、「上等や!なんとかしよやないけ」と唸らせる(笑わせる)ことができたとするならば、榊原記念病院オモロ審査委員会では、「SNS笑いの上2段」の称号を晴れて授与する仕組みとなっております。
さて、そんなこんなで、もうそろそろ、「それ大丈夫そ?」と尋ねようと思ったその頃の矢先のことでした…。
“ライン”という、これまた奇っ怪なものが出現しました。なんとなんと大容量の映像が送れるのです。
そしてこの直後からのことです。これを知った小生の原記憶たちが、“今からは、ぶっつけ本番的に視覚に訴えることが大事なんだ”などと、小生に訴えかけ始めたのです。と同時に、聴と視と触の記憶たちの間では“視覚より触覚ですよ”、“いやいや、それは時代の逆行だ”などと、視と触が顔を真赤にして議論することが増えました(聴はいつもおろおろとしています)。
小生すぐさま、若手に対して、「当直ライン報告には、視覚記憶に残るオモロイ画像を添付せよ!」という絶対司令をラインで発したのです(もちろん、お友達登録しました)。
そしてそれとほぼ同時期のこと、“若手には筆力よりも笑力”という、なんて心地良いかつ牧歌的な響きの格言が誕生したのです。
さてさて読者の皆さん、つい最近のことですが、小生のラインには、それはそれは膨大な量のオモロ写真、所狭しと眠っていることが発覚いたしました。例のインカの野積みとは殊更に異質なもの、確かに二級品の遺物ではあります。しかし、この発掘品、骨董品とは言えない“新物”ではあるものの、見れば見るほど奥深いのであります。
早速、修復作業に取り掛かりまして(法規上、十数枚は破棄しました…)、なんと何と、総ページ数160頁余り、上製本・レザークロスハードカバー総天然色の高級写真集が誕生したのであります。
続きます。
※院内に限った公開の許諾は、既にすべての出演者から頂いております。しかしながら、一般への公開には、道義上の再検討に今暫くの時間を要するかもしれません。