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コラム

送別の儀 その三

特命副院長になる前の、39年間の小児心臓外科生活、心残りがあるとすれば、それはたった一つだけ…、
実に惜しいのですが、後1年勤務すれば、就業満40年周年記念として、特別ボーナス5万円が貰えたということです。(実はなんとかならないかと真剣に上申しましたが…、一蹴されました…。ヒロシ風に、“無念です”)

まあでもしかし、過去のことは過去のこと、今のことは今のこと、たとえこのまま昔に戻ることができたと仮定しても、今までと違う人生になっていることは多分ありえませんので、そんなお下品でつまらないことを考えるのではなく、この手術世界で生き延びた者として、もしくは、その者だけに許される定年後の大事な使命について少しだけ考えなければなりません。

さてさてさて、ロートル外科医の真骨頂条件とは一体何なのでしょうか?
その一つはやはり、引き出しが多いということ、そして、それぞれの引き出しに多くの経験が詰まっているということでしょう。
どこかでお話したように、それほど入れ込まずにある程度100点の手術ができる、もしくは、ベテラン的な枯れ枯れ(キレキレとも言うのか?)の手術ができるということ、もちろんこれらは大事な必須条件ではあります。

しかしながら、手術だけに没頭していた一昔前の三昧時代を思い出し、かつ、そこから少しだけ視点を変えてみますと、これらの真骨頂条件は、何故か不思議に、手術本来のあるべき姿からは少し逸脱しているような感覚を覚えます。また、そのように考えること自体、手術に対する価値観が相当マイナスに変化していると反省しなければならないのかもしれません(…どうも、それは、老害的迷惑逆真骨頂です…)。
さらにさらに、裏返してその逆を読めば、若手が最初から枯れた手術ができるように指導育成すること自体、若手の成長を逆に止めてしまう可能性があるといいますか、多少気色悪いことでもあります。

ロートル外科医にできること、それは多分ですが…、
若手は、新しい時代に新しい技術を持って”強い手術”を行うことが望まれます。しかし、新しい時代にも変わらないもの、もしくは変わってはいけないものは必ず存在します。しかし、そのことを習得できるまでには経験上多少の時間が要ります。従って、ベテランは、決して邪魔をしないように、その若手がそれを習得するまでの時間短縮化に関して後押しをすべきです。(※新春特別企画「いざ鎌倉へ」参照)
若手の能力は徐々に進化していきます。しかし、それに伴って、もともと大事にしていた脳の端にある進化以前の大事な基本能力が消失する可能性があります。その防御を図ることも大事かと思います。

今思いつくことは、まあ、こんな事柄でしょうか?(…掴み所のない偏屈外科医の真骨頂です)

さてさてさて、相も変わらずの迷路ワールドに突入しておりますが、いずれにしましても、たとえ話が通じ合わなくとも、ロートルと若手が真剣にバカっぽく議論する場はやはり必要かと思います。
その風景は、たとえ美的なショットでなくても、はたから観察すると結構オモロイものではないでしょうか。
しかし、その際、我々ロートルは、できる限りの若作りをして、可能な限り芸能界に関する知識と事情に精通しておくことが最低の礼儀です。

今まで作り上げてきた榊原記念病院の小児心臓外科、長い時間が経ち、多少の進歩があったとはいえ、ベテラン、そして若手がそれぞれ別個に、できれば同時に、心の底から人に誇れるような外科チームとなったと自慢できるには、未だ少しの時間が必要です。
定年を過ぎてもロートル外科医として働くという意義については、今後も無理くりに、そして、いつもの小児心臓外科医らしく”ひねくれまくって”考えていく所存です。

若手の皆さん、どうぞ、なるべく早めの成長と発展を期待しております。
小生の方は、同様になるべく早く、可愛くお茶目な爺さんになってやろうと考える今日この頃です。