俵尊 その五
心疾患
先天性心疾患は、心臓の構造上の異常が病因となります。
心臓の壁に穴が開いている、血液の流れが悪い(狭い)、弁の逆流がある、血管が逆に付いている、心室が一つしかない等々、多くの病変があります。また、主に非チアノーゼ性とチアノーゼ性に分類されます(チアノーゼとは血中の酸素が足りずに皮膚や唇が紫藍色になること)。
そして、症状の強さやその発現時期は、これら病変の重症度と(穴の大きさや狭さの程度など)、それらの組み合わせにより個々に異なることになります。
先天性心疾患の場合、病変が軽い場合には症状は殆ど発生しません。
従って、「幼少より病弱であった」ことからは、少なくとも軽症の病変では無かったといえます。また、逆に、26歳まで比較的長生されたことを考えると、重症の病変でも無かったと推測します。
そうすると、その病変は中等症と考えられ、非チアノーゼ性心疾患では、肺血流が増加する心室中隔欠損症や動脈管開存症、房室中隔欠損症、もしくはその類似疾患である可能性が出てきます。これらでは多呼吸や運動能力の低下、体重増加不良などの症状が出現します。
また、チアノーゼ性心疾患であった場合、その多くは重篤で短命ですが、中にはチアノーゼが軽いファロー四徴症や修正大血管転移症など、もちろん運動能の低下や顔色が悪いなどの症状はありますけれども、通常の生活が可能な疾患もあります。
これらの疾患であれば、幼少から前述した病弱と呼ばれる症状を呈しますし、比較的長生きできるのではと考えられます。また、加えて、頻脈発作を呈するWPW症候群のような先天的な心房性不整脈も、発作時は身体が弱いと思われる症状を示すことになります。
このように、先天性心疾患も「この子は病弱である」という症状を呈します。
何の証明にもなりませんでしたが、子どもの肺疾患をあまり診たことが無い小児心臓外科医としては、すぐに俵尊が病弱とされる要因 イコール(=) 心疾患と短絡的に考えてしまいます。
さて、神をも畏れぬ行為をしてしまいました。俵尊には改めてお詫びを申し上げに伺います。
しかし、もちろん身勝手な思いですが、日之影町出身の小児心臓外科医としては、何か不思議なご縁と親近感を感じざるを得ません。
大日止の棚田に行きますと、屈強な鉄の漢たちを従えながら鉄穴流しの場に立つ、透き通る肌をした俵尊のお姿が見えるようです。
俵尊は、「胸部の神として万民を救うであろう」と仰せになりました。現在、数々の奇跡から多くの信望を集めています。
しかし、ご自身で宣言されたこととはいえ、それはそれで大変多忙だとお察しします。
恐らく、恐らくですが、信仰心も何もない人間の多くの願い事に対して、「もう聞きたくない」とか、「お前、もう来なくていいよ」と思われることは無いのでしょうか。
多少お神酒飲んで、くだを巻くことは無いのでしょうか。
神さまは、本当に大変だなと拝察します。
次回、最終稿です。
大人神社です。