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コラム

新春特別企画「いざ鎌倉へ」

明けましておめでとうございます。まだまだ世の中落ち着きませんが、皆さまお変わりございませんでしょうか。

本年もどうか一つ、長~い目でお付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。

 

今回は、新春特別長編企画です。新春シャンソンしょう…、始めます。

 

さて、皆さんは、心から楽しみにしていたこと、もしくは、ここだけは絶対にはずしちゃいけないこと、直前になって怖くなりドタキャンしようとした経験はございますでしょうか?

 

思い起こせば…

現役時代の大学受験、

大学軽音楽部時代のコンサート前、

若手の頃のとっても大事な手術前、etc.

今まで色々とありましたが、今回ほどビビりまくったことはありません。

 

さてさてそれは、昨年11月12日のことでした。

その日は、待ちに待った某出版社企画、臨済宗大本山円覚寺管長、横田南嶺老師との対談日なのであります。

この対談、小生たっての希望でもありまして、企画が決まった時には、小生の心は既に鎌倉武士、「いざ鎌倉一所懸命の鳩サブレ」、三度だけですがスキップしてしまいました。

 

しかし、考えてみますと相手はなんと鎌倉五山禅宗のトップともいえる存在、小児心臓外科医の心、その日が近づくにつれ、ブルーにダウンしてまいります。

企画担当者に連絡してアドバイスを頂くものの、“あまりご心配いりません、普段通りで!”、などと心知らずの言葉が返ってきます。一向に心が持ち上がりません。

しかも、どうやら南嶺老師は拙書を熟読されて敵(小生)を研究されているとのこと、この時ほど仏さまを頼ったことはありませんでした。

 

しかし、嘆いている場合ではござんせん。これでも、小生の先祖は武士の端くれ、その末裔でもあるからにはこちらも当然、開戦準備は必要です。

早速、南嶺老師のご著書を送って貰い敵方の分析です。しかし、高橋家は代々曹洞宗檀家であるものの、また、多少の座禅の経験はあるものの、そこはやはり飽きやすくいい加減な外科医の真骨頂、禅語上手く把握できません。よく理解できません。

それでも、鎌倉武士なみに一所懸命読破いたしました。…よしよし、「いざ鎌倉へ!」

 

そしてようやく決戦の朝を迎えました。頭の中は四文字熟語だらけです。

飛田給から新宿経由で乗った湘南新宿ライン快速、時間ギリギリで駆け込み間に合った池袋寄りの15両目…、心が弾みます。乗り換え無しで約56分、北鎌倉駅へと降り立ったのであります。

そういえば、大学6年のときに新宿にあった(正確には代々木)榊原記念病院を見学させて頂いた際に、江の島経由でここまできた記憶があります。土砂降りの中、大仏さんや長谷観音さんにもご挨拶させて頂きました。

(“新米は要らん”と心温まるお言葉を頂いたあの時です。昭和55年夏の日のことでした…)

 

さてさてさて、到着した際には“溌剌青空”、“意気揚々”、腰の2本の業物を確認します。
よし!、“天下泰平”、何事にも“虚気平心”で打って出ようぞ!!
そして、帰りには、“焼肉定食”でも食ろうて“美酒佳肴”!!! 
四文字熟語がさらさらと浮かびます。

 

ところがところが、その気持ちを削ぐ事態が発生しました。

その引き金となった大きな要因は、あの北鎌倉駅のプラットフォーム…。

なんとなんと、北鎌倉駅の改札は鎌倉寄りに一か所のみ、小生が降り立ったのはその真逆の端、その改札までの15車両分の道のりの長いこと長~いこと、

妙な小心が頭をもたげるにはとにかく十分すぎる距離と狭さなのです。

北鎌倉の紅葉を見ながら心の高揚は急降下、不安と楽しみの鬩ぎ合い、徐々に不安が増大して小心者の外科医に襲い掛かります。(レコード盤回転数が45回転から突然33回転になったような……。トボトボと歩く小生、想像してみてください、ヒロシ風に「…ボッチです。」)

 

……このまま帰ってしまおうか……。

今まで、子どもの手術の時には、心も強くなってもらいたいと心臓に2~3本植毛しとこうかと考える小生ではありますが、自分の心臓にも植毛が必要です…。取り合えずリアップを買いにいこうと、心の底から反省致しました。

 

さてさてさて、さての4乗、円覚寺山門の入り口に到着です。何故か横須賀線路が参道を横断しています。

(そういえばこの辺りに、美味いビーフシチューのお店があったような無かったような…。)

すぐに担当者に無事到着と電話します。(スタッフ一同は朝乗りして既に中で準備していたようです)

山門に姿を見せた担当者、傷心の外科医には何故か神々しく(仏々しく)、頼もしく見えます。

 

石段をゆっくりと登ります。

すると突然、、“横田です”とのお声、そこにはなんと老師のお姿が!全く気付きませんでした。

なんとなんと、管長直々にお出迎え頂いたのであります。ご挨拶する心の準備ができていない状態でのご対面、口上する間も無く、二人は出会ったのでありました。

(鎌倉時代でしたら、この油断心臓外科医、即座に切られていたことでしょう。全くもって修行が足りません)

 

そこから、対談する部屋まで境内をご一緒させて頂きました。

やや谷地となっている伽藍に沿って、気がお山から流れてきます。

この突然の出会い、ウダウダとプラットフォームでいじけていた外科医の心、不思議にス~っと楽になりました。

大変失礼だとは存じますが、お会いした途端に、「なんか外科医と同じ匂いがする」と不遜にも感じてしまったのです。

 

“さての5乗”、それからの約2時間半の対談、それはそれは楽しいものでした。

蓮の葉の上を義経さんのように飛び跳ねる気持ちとでもいうのでしょうか。(…そういえば頼朝さんへのご挨拶も随分ご無沙汰しています。)

しかし、その対談内容については、「使命感」や「入れ込まない気持ち」に関することなど、偉そうにお話しさせて頂いたことはお覚えているのですが、実はあまり記憶に残っていないのです。アウェイでの時間軸、少し歪んでいたのかもしれません。

ですから、担当者から届いた対談ゲラを見ますと、冷や汗たらたら、反省の二文字しか心に浮かびません。

(この対談記事が掲載されている雑誌は、既に出版されていると思いますが、内容詳細については、“ここで書いちゃダメ”とのキツイお達しがありましたので、是非お買い求めいただければと思います。なんと表紙の写真、小生なのです。月刊『明星』にライバル心を抱いてしまいました。気分はまさに郷ひろみです。なお、対談の翌日には、円覚寺Webの「管長のページ」の中に、対談に関するご感想がアップされておりました。過分なるお言葉、再度恐縮した次第です。)

 

加えて、対談の終わりには、小生の仕事に関して、「自靖自献」というお言葉を頂きました。誠にもったいないことで、ただただ感じ入り、恐れ入りました。

普通では中々お会いすることも叶わない、奇跡とも言える老師との対談、大変有意義な思い出となりました。

 

帰りの湘南新宿ライン、北鎌倉駅の長いプラットフォーム…、歩いています。

対岸のプラットフォームが懐かしく思えます。過去の自分はもう気になりません。同行二人です。

さすがにスキップはご遠慮いたしましたが、気分は高揚(紅葉)状態です。

少しだけ、「ビビりの閾値」、上がったような気がします。

南嶺老師、その知識の膨大さと相手にたいする厚き御心、また、その凛とした佇まい、誠に感激した次第です。

再度お会いする機会を頂ければ、そしてお話させて頂ければと、心から祈念しております。

小心(傷心)者、また最近では、偏屈で掴みどころのないと称されたザッケカけない心臓外科医、何かが変わったような気がします。

少し大人になりました。

 

なお、対談後には、雑誌掲載用の写真もご一緒に撮らせて頂きましたが、小生、今回かなり気持ちのブレがございまして、自分で写真を撮ることを失念しておりました。今の気持ちはこの写真のように「真っ白」です。

 

北鎌倉の思い出
北鎌倉の思い出

 

PSその一

帰りの湘南新宿ライン、気分よくグリーン車に乗りました。それにしても、グリーン代、車内で買うと何故高いのでしょうか?さすがに般若湯は遠慮いたしましたが、そのまま爆睡してしまい、見事に新宿を通過、池袋からの乗り換えに苦労しました。全くもって修行が足りません。

 

PSその二

対談中には、お茶を3回も頂きました。

若いお坊さんが持ってきてくれたのですが、この方々、この円覚寺で修行されること、そして、一つの青春時代をここで過ごすこと、本当に幸せなんだろうなと思いました。

禅宗寺院でお茶を頂く、初めてのことではありますが、まさにこれは「喫茶去」であります。

この禅語、多くの解釈がありますが、小生には、院主さんへの叱責が根本にあるのではないかと、外科医的ひねくれ状態の解釈をついしてしまいます。

一つの学問には、例えそれが発展していったとしても、例え新たな表情に変化したとしても、永劫に変わらないもの、変わってはいけない真理があること、学問の場に身を置く経験と立場のある人間がそのことを感じないでどうするのかという叱責です。

外科学の世界でも、治療法や機器の進歩があったとしても、変わってはいけないものを如何に持ち続けるか、ブレない心をどこまで持続させるかが最も大事なことだと思っています。

恐らくですが、そのことが、心の安らぎに繋がり、そして、“世のため人のため”になると信じています。

そして、ひいては手術を受ける子供たちにもそのことが引き継がれていく、大事な大事な使命感の連鎖なのかもしれません。

利休さん、果たしてあなたは、この「喫茶去」、どのようにお考えになられていたのでしょうか?

 

PSその三

忘れていました。掲載誌は、致知出版社の月刊誌2月号です。

読者の皆さま、どうか健やかに、今年も元気にぶっ飛ばしましょう!そして、小心外科医のブログ、少しだけお付き合い下さい。