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コラム

俵尊 その一

昨年12月6日のMr.サンデー(フジテレビ)で、小生の特集を組んで頂きました。一昨年の秋から昨年のはじめにかけての撮影でしたが、大変こっ恥ずかしく、放送後にはまたまたお馴染みの賛否両論を頂き、誠に有難うございました。

その中で、神社参拝のシーンが流れました。ご存じのように、宮崎県には各地区に多くの神話や伝承が残されています。それだけ多くの神さまが実在したということです。

今回は、その中から「俵尊」という神さまのお話をしたいと思います。

神さまの話なんてとても畏れ多いことです。しかし、この神さま、中々洒脱でイケメンでいらっしゃいます。失礼を承知で、読者の皆様にご紹介させて頂きたいと思います。

相も変わらず右往左往する文章となりそうですが、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。

 

「きょうつかさん、きょうつかさ~ん!」、小生が幼き頃、地震がある度ごとに町のお年寄りはこう叫びました。「きょうつかさん」は、大鯰のしっぽを握って暴れさせないようにしている神さまです。

しかし、時折居眠りをされるようで、この時しっぽを離してしまうので地震が起こると信じられています。ですから、鯰のしっぽをつかみなおすように、大声で「きょうつかさん」を叩き起こす訳です。

そういえば、小生の祖母は、実家近くの鎮守様(船霊さん、祭神は猿田彦大神)にお参りする時、拝殿と本殿の周りを歩きながら、壁をどんどんと激しく叩いていました。その当時、神さまって本当に寝坊助なんだなと思っていました。

小生の生地、宮崎県西臼杵郡日之影町には、天孫降臨にまつわる神社が多数存在し、冬になりますと、各地で夜神楽が奉納されます。幼少期から、神さまは切っても切れない存在でして、言い方は大変不遜ですが、そこら中、神さまが歩いているという印象を持っていました。

 

さてさて、昔々のことです。西臼杵群日之影町の大日止地区に、俵尊(タタラノミコト)様という神さまがいらっしゃいました。(以下、敬称を略させて頂きます)

昭和14年のある日のこと、俵尊より「西臼杵の日之影に自分の古墳がある」とのお告げがあったそうです。

しかし、古墳の存在なんて誰も聞いたことはなく、また、当時の日本は戦争に突入しようとする混乱期であり、そのお告げに対応できる余裕はありません。

戦後の昭和21年になってようやく探索を開始、その古墳が大日止にあることが判明しました。

出向いて御名前をお尋ねしたところ、「自分は俵尊と申し、天鈿女命(アメノウズメノミコト)の三男に当たり、幼少より病弱にして26歳でこの世を去った者であるが、今後、胸部の神として万民を救うであろう」と言われたとのこと。

その後、その神霊は医の神として祀られ、現在、ご神体は延岡市の常楽寺に遷座しています。現代医学では説明できない数々の奇跡を起こし、現在も病む人々を救う神さまとして参拝者が絶えません。

(小生が聞いても、医師として信じられないことが沢山あります。)

 

しかし、小生が日之影町に住んでいた頃は(中学校3年生の初めまで)、近くに俵尊の古墳があったものの、全く知らない神さまでした。“俵尊は胸の病気をつかさどる神さまである”、それを知ったのはつい5年程前のことでして、日之影町出身の小児心臓外科医として、何というご無礼をし続けてきたのかと反省しております。

それにしても驚くべきことは、ご自身で「胸の病気を治す」と宣言されたことです。神さま自ら、ご使命を仰せになるような話は、まず聞いたことがありません。俵尊には大変失礼とは存じますが、私ども医療従事者にとっては大変ステキな伝承であります。(最近、神社にお参りする際には、神さま、本当に願いを聞いてくれているのかと疑問に思うことがままありますので、この俵尊の逸話には多少感激いたしました。すみません…、こういうことを書くと、また叱られそうです。)

そして、恐らく、今からも新たな伝説が生まれていくのでしょう。
※実を言いますと、今回のテレビ取材では、俵尊についても撮影をして頂きましたが、残念ながら時間の関係でカットになりました。そういう経緯もあり、紹介させて頂く次第です。

続きます。

日之影(ひのかげ)…神武天皇の兄である三毛野命(ミケイリノミコト)が鬼八という鬼退治のため高千穂へ向かった際、鬼八は大雨を降らせ川を増水させて三毛野命の進路を阻もうしました。三毛野命は天の神に祈念すると激しく降っていた雨が止み、「日の影」(影は古語で光のこと)が差し始め、川を渡ることのできた三毛野命は見事に鬼八を退治することができたのです。三毛野命は『なんと有難い日の影か』と言われ、それ以来、日の影(光)が差したこの地を「日之影」と名付けました。
現在、鬼の鬼八さんのお墓は高千穂にあります。でも、退治されるほど悪い人にはとても思えないのですが…

三毛野命の道です。
「日之影」です。
大日止(大日〆、大人、おおひと)…日之影町にある地名。降臨した瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)は、岩井川神社のある宮崎県日之影町大日止地区に止まり滞在しました。大いなる日の御子が止まったことから古来より大日止と言われています。神楽はもちろん、400年以上の伝統を有する大人歌舞伎で有名です。
大人歌舞伎です。結構本格的で、おひねりが飛び交います。
大人歌舞伎です。結構本格的で、おひねりが飛び交います。