Doctor Blog

コラム

お手紙とビジネス本

小生のブログに関して、多くの方々からご意見を頂いております。心より感謝申し上げます。
先日も中学校2年生の生徒さんからお手紙を頂きました(小生が手術を担当した患者さんです)。

ブログの内容に関しては、我々外科医が考える常識というものが、皆さんが考える非常識とならないように、
つまり、大きな顰蹙を買わないようにと、少しは練りに練って作成しております(もちろん、多少お神酒が入ります)。

しかし、まずはとにかく笑いを取れば何とかなるといいますか、思い付きで書くといいますか、外科医の悪い癖が全面に出てしまうことも事実です(相変わらず、広報からは突っ込まれっぱなしです…)。
ですから、中学校2年生のお手紙、何か不都合があったのではないかと、手を震わせながら開封させていただきました。

それが、なんと、小生のブログを読んで、「医師への道を選ぼうという決意がさらに強くなった」という内容でした。いやはや、心が熱くなるというか、少し文字がぼやけてしまうというか、大変嬉しく思いました。
いい加減で飽きやすい外科医の文章、誰かが少しでも感じてくれるのであれば、これはこれでブログ冥利に尽きるというものです。また、大変失礼ですが、起承転結、実に良くできているというか、中学2年が書いたとはとても思えない文章の流れです。
小生のブログには、まず作文の修行が必要と心から反省致しました。参考にさせて頂きます。

さて、皆さん、『観天望気』という言葉をご存じでしょうか?
Wikipediaによりますと、「自然現象や生物の行動の様子などから天気の変化を予測すること、また広義には経験則をもとに一定の気象条件と結論(天候の変化の予測)の関係を述べたことわざのような伝承のことをいう」とあります。
例えば、「夕焼けの次の日は晴れ」、「ツバメが低く飛ぶと雨」、「山に笠雲がかかると雨や風」、「ハチの巣が低いところに作られると台風が多い」などなど…です。
これらは、丸木舟で航海を行う古代の海の民だけでなく、特に、天気を適格に予想することが死活問題でもあった、農耕民族である当時の日本人にとっては極めて大事な能力だったはずです。
おそらく、昔の権力者は(多くは、今では神さまとして祀られています)、戦闘能力や交渉能力だけでなく、この観天望気を多く持っていることも、人々の信頼を得るための、権力者足りうる重要な要素だったのかもしれません。

しかし、考えてみますと、この観天望気的能力は、我々外科医に最も必要なことです。手術においては、予想外の事が発生する場合があります。
ですから、「こういう事が出てきたら、このような危険が起こる可能性がある」、「危険が起こらないように、前もってこういう方策を取る」など、特に体外循環を用いて心臓を止める手術を行う心臓外科医は、心臓だけでなく、全身状態が悪化しないように、『こういうもの』を多く知っておくことが何よりも必要です。この外科医的観天望気も、まさしくことわざのようなものであり、伝承すべきことだと思います。
それが、匙加減であり、経験を積むということ、ベテランといわれる理由です。

拙書「榊原記念病院低侵襲手術書」では、外科医だけでなく、看護師や技士、生徒さんからのご質問に対するお答えを、Q&Aという形で掲載させて頂きました。目的は、今から経験するであろうことを、文章でもいいから前もって知ってもらいたいと考えたからです。そのような観天望気的知識を蓄えることは、彼ら(彼女ら)の医療人としてのスタートラインをより前に移動させるだけではなく、今後の医療の発展につながると信じています。

さて、話が飛びます。
この拙書の内容、もしくは掲載しなかった小生の文章に対して、某出版社の編集者の方が興味を持ってくれました。
「そのお話は、そのままビジネスの世界にも置き換えることができますね。」
ちょうど、"学位取得に挑戦する~外国語試験を受ける~"を書いていた時でしたので(まだ、ブログの意味も分からない若輩時期です)、自分としては大変意外に感じました。
なんて、奇特な人なんでしょう!!!(第一感想です)

しかし、考えてみれば、子どもや親御さんたちの切実な要求と日々向き合い、極度のプレッシャーの中で最高のパフォーマンスを発揮すべく、己を磨き、チームづくりをしている小児心臓手術の仕事は、なるほど、多職種の世界にも通用する部分が多々あるのかもしれません。

拙書は10月中に出版予定です。
でも、なんとま~、ビジネス本です(少しだけ後ろめたさがあること、是非ご理解ください)。
本書では、手術への準備やルーティンの重要性、集中力をいかに持続させるか、想定外の事態への対処法、良好なコミュニケーションづくりの核となるもの、働き方改革時代の若手の育て方……などなど、机上ではなく、できるだけ実体験に基づき、述べさせていただきました。
外科医として私のつたない経験が、いささかでも皆様のお役に立つ部分があれば嬉しく思います。

お手紙頂いた生徒さん、有難うございました。
またまた、外科医の妄想が大きく膨らみそうです。

さて、次回からは、ようやっと"インカの野積み崩し"についてお話を進めます。机の中は完全に密状態となっています。果たしてどのようなものが発掘されるのでしょうか?

東征地の朝日です。