Doctor Blog

コラム

ソーシャルディスタンス

先日、重篤な赤ん坊の緊急手術依頼があり、ある地方都市で手術を行ってきました。
もちろん、手術前にはPCR検査を受け、万全の体制で手術に臨むわけですが、この時期、たとえ命を救うこととはいえ、東京在住の小生が移動することには相当悩みました(そう考える、今では生粋の東京人っぽくなった自分に何故か赤面もしてしまいました。それまでは、自然が恋しいという宮崎県出身田舎者特有のストレスを感じていたのですから…)。

当然、移動手段には気を使います。出発前には、ドヤ顔の感染対策担当者に厳密なレクチャーを受けました。もちろん、夜の会食その他は厳禁です(この時、心臓外科医って本当に信用されていないんだな~と痛感しました)。

往路は時間が限られており、飛行機を選択しました。かなりの減便になっており混んでいるかと心配しましたが、左右3列の座席は見事にガラガラ。ソーシャルディスタンスOK。かなり神経質にお仕事されている様子のキャビンアテンダントさんからのドリンクサービスは、丁重にご遠慮申し上げました。
復路は、減便の影響で時間が合わず、新幹線です。飛行機より長い移動時間となりました。しかし、なんと、乗った車両の乗客は小生を含めて2人のみ、そのお一方も途中で下車され、東京までの殆どの時間は、貸し切り状態でした。見事なまでのソーシャルディスタンスでした(ビールを少し頂きました)。

さて、皆さん、恐らくおそらく、それ以外の小生の行動はどうだったのかと、疑問に思われていることでしょうね?
もちろん、お話したように、手術そのものは密中の密ですからソーシャルディスタンスはできません。しかし、食事には個室をお願いするなどして、すべてにおいて修行僧なみの生活を心掛けました(ただ、土地のお神酒はほんの少しだけ頂きました)。

でも、問題は、病院と駅の間の移動です。時間は10分もかからないのですが、どうしてもタクシーに乗らなければなりません。帰りの駅までのタクシー、運転手さんも小生もマスク着用、また前後の座席の間には何故か大きすぎるくらいのビニールカーテンがあります。かなり気を使っているのだなと思いました。この日は台風のフェーン現象で、外は36℃の熱波。でもタクシーは密です。ですから、少しだけ窓を開けました。
それに気づいた運転手さんも自分の横の窓を開けます。かなりクーラーの効いた車内はすぐにサウナ状態、お互い無言のまま、駅へ到着です。
料金を払う際に運転手さんが言ったこと、「今日はもうお帰りですか?感染が少ない当地でもコロナの影響は大きく、私どもも本当に困っています。ここに来ていただく方々、特に観光客の皆さんにはいつもと違う接客をしなければならないこと、申し訳ないと思っています。お気をつけて!」

自宅について、そして病院に出勤して、感染対策者に、PCRがマイナスであったこと、また、今回の出張の際のソーシャルディスタンスの完璧さについて自慢げに報告しました。自分を感染から必死で守ったことを…。

でもなんか違うぞと気づいたことがあります。
自分が感染しないようにCOVID-19対策を厳密に行うこと、これは子どもの手術を担当する小生には当然の義務です。しかしながら、その厳密さはいろんな言動において、それがたとえ正しかったとしても、もしかしたら他の人を不愉快にさせているかもしれません。
現在、感染しないようにという防衛対策はどこでも厳しく行われています。しかし、そのことは皆の気持ちを少しギクシャクさせる可能性があります。

もっと大事なこと、それは、いつ何時誰もが感染するか分からない現状において、自分が感染している可能性をまず考えて、他人にうつさないという気配りではないでしょうか。
雨の日に少しだけ“傘かしげ”して道を譲ってあげる、そんな気持ちです。
自分から感染させないように考え行動すること、少しだけ気持ちをおもんばかること、この時代には最も必要なことであり、それは日本人として特徴的な心意気、美意識と信じます。

タクシーの運転手さんも、どうぞ気を付けてお過ごしください。

続きます。


似顔絵を頂きました。