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コラム

手術雑感2 ~COVID-19後 その2~

高校生のご意見、 AI(人工頭脳)という言葉をひと昔前の外科医が聞きますと、直感的にブラックジャックのブレインU-18(治療ロボットの名前です)を思い出してしまいます。

ブラックジャックがそのU-18を治療するために、U-18自身から指名されるのです(涙々の物語です)。

 

拙著『榊原記念病院 低侵襲手術書』に書きました“Constant Perfusion”について、少しだけはしょってご説明します(話が飛びまくってすみません…)。

心臓手術は、心臓を止めて修復している間、体外循環という方法で全身の循環を維持します(もう少しお付き合いください)。これは心臓手術に必須のものですが、体外循環は人間の身体に対して、多くの非生理的な変動を作ります(結果として浮腫みや臓器の機能不全が発生します)。

従って、この変動を極力少なくさせることが重要で、そのための体外循環方法をConstant Perfusionと言います(この言葉、実を言いますと小生が作った造語です)。

 

この変動に対してはいろいろな補正の治療を行います。微妙な調節が必要です。微妙なだけに、この補正だけはAIの方が良いと考える次第です。

でも現在の決まり事ではAI化はしてはいけない決まりとなっています。本音を言いますと、AIに任せたい仕事なのです。そうすると体外循環を操作する技士はもっと楽にConstant Perfusionの管理ができるのです。

このあたりのAI化に関しては、是非、ホンマに心臓外科が分かっている人に判断して貰いたいものです。

 

でもでも、今はやはり、精一杯の医療を提供しようと頑張っている人間がいる間、この管理だけはその人間たちに任せたいと思います。例えAIを利用し、そしてAIが自己学習していくとしても、体外循環の機微とAIの心をよく理解している人がまずは作らなければならないからです。これを忘れてはとんでもないことになりそうです。

最初のさじ加減はまず人間が経験して反省すべきですし、それよりもなによりも、もっとAIと仲良くならなければなりません。

 

改めて、小児心臓手術を考えてみましょう。

小児心臓手術は、心臓の先天的な構築以上を正常に近く治すというものです。“近く” という意味は、心肥大や他の合併疾患など、もちろん治せない構築以上もありますので、心内修復術という言葉もあるように(根治術ではない)、できるだけ機能的かつ構造的に修復するということです。小児心臓手術は、そのような観点では、上手く治すだけの単純なものかもしれません。

 

AIは簡単かつ精密な結論を出してくれるかもしれません。それこそ機械的にとんでもないミラクルな手技を提供してくれるでしょう。でも、その治す過程の機微、特に治療される子供たちの思い、親御さんの気持ち、ひいてはわがまま外科医の経験というものを理解できないAIは、やはり寂しい存在となるのかもしれません(AI自身も悩むことでしょう)。

囲碁や将棋のようにAIと闘おうというものではなく、U-18との会話のような関係が、今後のAIとの間にもやはり必要と考えます。

 

このようなことを考えますと、もし、医師や看護師、技士との間、特に上層部との間に何のコミュニケーションもなく、それでも上手く動いていると錯覚を持つようなことがもしあるのであれば、むしろAI化を推進すべきなのかもしれません。

 

そして、もしAIがより人間的なものであるならば、機械に恋してしまうかもしれません(ブラックジャックのように…)。

 

続きます。

旧病院の第1手術室です。