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コラム

500例の小児心臓手術 その5〜あの時と今〜

年寄りが昔のことを言うことは野暮だと自覚しています。年寄りの思い付きほど厄介なものはないとも重々承知しています。でも、野暮全開で申します。ボヤキ一人漫才です。どうぞお付き合いください。

 

現在、“お前500例やれよな”と部下に言うことはできません。働き方改革の真っただ中、そんなこと言おうものなら、労基から即指導が入ります。また、昔のように500例やるように教育指導しようと計画してもそれはイケません。安全管理の方々がドヤ顔で登場することになります。もちろん能力以上のことをやれと言ってはダメです。あせらせてやらせてもダメです。下手するとパワハラで訴えられます。易しいことから地道にみんな横並びでの研修を行います。

 

もし、働き方改革にのっとって500例をやろうとすれば、まず手術にかかわるスタッフ数は今の3倍、手術数も2室以上、ICUベッド数も1.5倍は必要でしょう。でもそんなことは経営上全く不可能なことです。しかも必要人数のスタッフをリクルートしようにも希望者がいません(すみません、これから段々と人生幸朗さんみたいになってきます)。
“すたっふ~”と叫んでも誰も来てくれません。昔、多くの医療従事者は、自分の子どもに対して、“医療系は大変だから希望の職業として選択することは勧めない”と口すっぱく言うことが多かったのですが、“今はとてもいい職業だからぜひ就きなさい”という時代かもしれません(もちろん医療の存続を熱望する発言です)。

 

読者の皆さん、榊原記念病院は年間1500例の心臓手術を行っています。さぞや儲かっているとお考えになるでしょうね。ところがどっこい、実を言いますとそれは完全かつ完璧に違います(これだけは心の底から断言します!!!!)。何故でしょう? う~ん? 何故と聞かれてもしょうがないんです。そんな決まりなんです。現在の医療報酬制度では単純に手術数を重ねただけでは儲かりません。しかも榊原記念病院は、民間病院ですので、創立以来、補助金をあてにせず運営してきました。当然、行政と関係がない独立採算です。

500例やっていたあの当時でもトントンの収益でした。働き方改革で人件費が増加した現在では、どうぞ皆さん、推して押して、そして知りまくって頂きたいと思います(あ~すっきりした)。

 

黒字経営にするためには、そこに品性と上質な質がまず必須と考えるのですが、これはなかなか難しい。もし、支援もなく良好な黒字経営が可能であるということは、どこかにひずみ的犠牲が生じた結果だけかもしれません。

さて、経営のことはともかく、少なくとも言えることは、外科医を含めた現在の若手スタッフがもし500例だった時代にワープしたら(今ではカンブリア紀ともいえる時代です)、全く使いものにならないでしょうね。しかしそれでも、小児心臓外科の質だけは存続させていかなければなりません。500例という数字はそのためのものであります。さてさてどうしましょう。

 

次回は、”じゃあどうする”の巻です。