道中二足の草鞋|19. 未来
「誰か、未来を見せてくれませんか…」、ふと湧くこの思いは、何ともズルく、ひ弱です…。
とはいえ、未来は何だか明るくもありそうで、不安満載ながらも期待も満載、気分はけっこう能天気なのです。
外科医から神職へ…、どんな物語が生まれるのか、楽しみです。
さて、今はもう、外科医時代に対して、「有難う」と言っていいのか、「御免なさい」と言っていいのか、よく分かりません。
そうですね、考えてみれば、外科医として全てをやり切った訳ではないのです。もちろん、「もういい加減にしなさい」とも言われてもいません。つまり、今現在は外科医&神主という中今…、外科医としての意識は、その時が来るまで、神主のそれと共に生き続けるのです。中途半端に律儀なのか無愛想なのか、自分でも意味不明ですが、こういったどっち付かずの二股膏薬的な性格もまた、小児心臓外科医の本質でありましょう。今はただ、その時間を頂くことの大切さに感謝したいと思います。
でもなるほど、こうやって話しができるのは確かに、「今のこの内」だけです。幸いにも、小生の周りには気持ちの良い人が未だ多く残っておりまして、訊き逃したことはいくつもありますし、言い返したいことはもっと沢山あるのです。
しかしこの中今は、それほどに窮屈かつ硬めであってはいけません。意味を持たせるとすれば、やはり、ホンワリやんわりという感覚が必要です。
例えば、双六で泊まる場所を決める、そんないい加減さがあってもいいのでしょう。スタートラインを少しだけ前に書き換える、そんな依怙贔屓があってもいいと思います。多少は人に頼られることが増えてきたのですから、偉そうなことを遠慮なく言ってもかまわないのです。
歳食うことは温水の冷水、また良かりきですね…。迷惑なことながら、未だ伸び代が残っているとも言えましょう。僭越ではありますが、この神主&外科医という時間だけは、シンプルなアドバイスだけで心から遊べる気がいたします。必要なことは、ちょっとした覚悟を持つことだけです。
しかし、初めに申したように、弱気の虫が出てまいります…。
少しずつ前に進んでいく、その感慨は嫌というほど経験しているはずなのに、年取りますと、「少し怖い」が増えてくるのです。でも、決して歩き疲れている訳ではありません。喋り疲れた訳でもないのです。お神酒の量はそれほど変わっていませんしね。多分少しだけ、気持ちの振り幅が狭くなっているだけなのでありましょう。
それにしても、外科医&神主の中今は、進みが遅いですね。
完全に外科医の匂いが消滅するのは何時のことになるのでしょうか。何だか、恋をしなくなるまでの時間を惜しむ気分でもありまして…、ちょっぴり感傷的で、同じ量だけ観照的、それはまるで、御神籤を引く時のようです。男は度胸とは知りつつも、今だけは、愛嬌という自信もまた持たねばなりません。
神や仏、魂や愛、ご縁というものは、決して目には見えません。
しかし、それらを思考したということは、その刹那だけでも、イメージが形として存在したということ、つまり心に描けたということです…。
仮のことではありますが、「過去と未来は共に不易なものである」と、この中今でそう確認できるのであれば、そして何処かで申したように、外科医の記憶を遡ることで、この時節だけの新たな記憶が生まれるとすれば、図らずとも、不変の存在の意思を確認できるかもしれません。それは恐らく、外科医だけでは辿り着けなかった大切なものですね。抽象的に申せば、未来を見張るということでもありましょうか。
その意味で、小生にとっての外科医と神職は、「同じもの」と言っていいのでしょう。
「出発進行…。役もまた、何でもこなせるタイプなんです」
『 あれほどの時間をかけて書いたのに、そこに付随する大切な思いは、嬉しいことも悲しいことも上手く思い出せません…。とても不思議で中途半端な気分です。
それにしても最近は、ついつい無言となってしまいますね。
筆が進まないのは、外科医としての小生と神主としての小生、お互いにどちらも、相手の出方を伺っているからでありましょうか。少なくとも今は、外科医の立場で先に発言する訳にはいきません。現在の立ち位置って難しいんですよ、本当に…。
どちらも正しいと言えるから、そしてどちらも正しいとは限らないから、両者の間には、例え正しくなくても赦されることがあるし、例え間違っていても大切とすべきことがあるのです。そんな時は、御神酒を傾け合えばいいと思うのですが、まだまだ打ち解けないのでありましょう。そう言えば、あの昭和晩期の小生もまた、そういう気分であったような、なかったような…。
それにしても、外科医の記憶を別の視点で見直せることはとても大切で有り難いことですね。それもまた小生の進化と考えたいと思います。幸せなことであります。
今はただ、外科医と神主、まるっきりは違わないことに感謝しておきます。 』