おはなし その五
ネット上では、無気力、無感動、無関心に分類される小生…、それにしても世の中、大きく変わりましたね。今後も又、何をせずとも変わっていくのでありましょう…。
しかし幸いにも、小児心臓外科医の心持ちは、周りの人間のせいで見た目が少し派手になっただけ、その本質は進化も退化もせず、大方変わりないようでございます。
さて、そんな若手外科医への『おはなし』…、というお話しです。
外科医というもの、外科医を目指した段階で既に、外科医としての何か大切なものを持っているようであります。
ですから、自分の弟子に対して、“敢えて教えず”とすること、度々あります。“教えを禁ず”ってこともまた、ちょいちょいあるのです。
このこと、“教えない教え”とでもいうのでしょうか…、何故なら、あまりにも大人目線な『おはなし』ばかり聴かせていますと、聴けば聴くほどに、そして識れば識るほどに、何だか面白くもない、出来上がっただけの外科医ができそうな気がするのです・・・。
ですから、「聞かせてはいけない、見せてはいけない、読ませてはいけない」…、まるで一昔前の高校の先生のようですが、そんな“百年早い”教えもまた上司の心得とすべき、そう思うのであります。
ところがそうは申しましても、小生の講演では、つい大人気もなく…、他人の弟子に対して“いい顔”をしてしまうものですから、やや大きめの一騒ぎが起こることもございまして、
そうですね、その“教えない教え”、前もってその意味を説明すれば済むことでありましょうが、説明すればその効果が薄れてしまいそうでございましてね…、実に悩ましいのであります。
しかしこれまた一方で、自分の弟子に対して、「聞いてはいけない、見てはいけない、読んではいけない」…、そのような無理強いは、“決してしない”のであります。
自ら精力的に動くことはむしろ推奨せねばなりません、それは、当人にとって、運命の出会いといえるもの…、大切なことであります。もしかしたらそこから先に、上司にはない、ホンマモンの何かが生まれるかもしれません…、十分に期待できるのであります。
ですから若手には、もともと在る大切なものだけ壊さないよう、自由にさせておく…、と言うか、妙なお荷物を持たせない…、いやむしろ、見て見ない振りをしながら現場に放っておく、そんなんで宜しいかと思うのです。
実を言いますと、このほったらかし、上手くいけばその内に、このブログで長々とお話してきた、自分と聴衆を癒すための“たしなみ”となるのです。現場における“均し”、そして“一つ話”の存続に繋がっていくのでありましょう…。もしかしたら、人さまの前での『おはなし』も上手になるかもしれません。
“教えない教え”、そして“自由とほったらかし”、若手外科医に対する『おはなし』では大事な仕掛けであります。しかし、その効果の発露は随分と先のことでございましょうね…、じっくりと楽しみに、しっかりと捨て置くことが大切なのであります。
最終話へと続きます。