手術室 その十壱 童話
さて、夜も更けてまいりました。
確かに…、渋滞の無い“ヤツ”の話っぷりは、騙しというか洗脳というか、無理くりの啓蒙というものでありまして、小生は、その御伽めいた物語に見事にヤラレたのであります。
そこで、頃合いをみて、
「今宵のお話、是非小生のブログに…?」
そうお願いしたところ、“ヤツ”は表情筋を震わせながら、満更でも無く、こう言ってのけたのです。
『わしゃ、お手頃、お手軽なヒールか?
ところで、お前のブログは、実に生熟れで爆笑と失笑しかない…、ついつい心配してしまうが、でも少しだけ『童話的』、だからまだ救いようはある…。
まあそうだな、お邪魔させていただくという謙虚さを前面に出してくれれば、載っけてもいいよ。何でもないことが上品で仕方がない、例えば、格安な日本茶に蒼い香りを感じるよう、できればそんな風にな…。小っ恥ずかしくて、唇が攣りそうな作り話は駄目だぞ。』
相も変わらず面倒いのですが、悪事を企てていそうながらも何故かキラッキラの眼…、心底嫌いになれないのが“ヤツ”の「徳」というものなのでございましょう。取り敢えずOKを貰ったのでありました。
♨
さてさて、読者の皆さま、いやはや…、
ここまで引っ張りまくって、飲み喰いまくって、本当はまだまだ喋り倒したい…、
“ヤツ”はそんな雰囲気でございましたが、まあそれは言わずもがな、よくよく分かっておりますから、もうそろそろいい時分…、そろそろお開きにしようかということに相成ったのであります。
某所某焼肉屋には、名残惜しさ満載、そんな気が満ち溢れております。
外科医と手術室は、切れと言われても切っても切れない、そんな切なき関係があるのでございまして、いったん手術をする(切る)という話になりますと、区切りもせず、出し切るまで続くのが外科医の性なのであります。ですから話の流れは時に細切れ、切に願うも、結論らしい結論が出ないままに切られることが多いのです。
「眉間に皺を寄せなければならない場合にはしっかりと皺を寄せる、寄せても上手くいかない場合は決して寄せない」、そんなことを言いながら、最後のマッコリを飲み干した“ヤツ”…、
どうやら、「手術のアップデートには、手術を考えるだけでは意味がない」、今宵、そんな当たり前のことを、ただただ百発百中的に伝えたかったらしいのです。
そうですね、
小生が小さき頃に読み聞かされた童話は、深く考えても仕方がないほどに当たり前な物語…、今も昔もそう思うことができます。そして“ヤツ”のお話もまた、深く考えなくてもいいほどフツーに当たり前、ごく自然なものでありました。
しかしもちろん一方で、当たり前のことは、当たり前すぎるからこそ、その解釈と実践が難しくなる…、このこと、私ども外科医には、身に染みてよく分かっている葛藤というものでございます。
手術室は、そんな当たり前なことを疲れさせずに考えさせる場所…、修行中の手術人にとってはリアルガチに、「当たり前」な場所なのでありましょう。
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読者の皆さま、こんなんが、“ヤツ”が語りまくった物語であります。
小生もまた、聞きまくり過ぎた感がございます。
そんなとこで突然ではありますが、今回のブログ「手術室」、そろそろお開きにしたく…、ここいらで失礼をば申したいと思います。長らくのお付き合い、誠に有難うございました。
外科医っていうものは、自慢話に浸ることが大好きな生き物であります。がしかし、今回、そういったお話は極力抜かせて頂きました。“ヤツ”から文句が来そうな気配ではございますが、いずれまた何処かでということで…。
それではまた。
追記 : 本日は8月下旬の某日、残暑酷暑の真っ最中であります。
小生は今、「御伽草子」を聴きながら、このブログを纏めております。“ひっそりかん”と、大人しく過ごしているのでございます。なお、番外編は、関係者からのご依頼を除き、慎んでご遠慮させていただきます。