Doctor Blog

コラム

手術室 その五 …となり

「手術のコツ…?」 
この質問に対し、‘’ヤツ‘’はこう言ってのけたのです。

『コツを学ぶってことは、多少気味悪くも、まずはとにかく、その外科医に興味を持つってことかな…。
…うーん、何から話していいのか? 
ああそうだ、手術記録の「絵」ってけっこう大事でね。
随分前に、日本最初の心臓手術の記録を見せてもらったことがあったな。
はっきり言えば外科医らしく下手な絵で、文字はさらにひどくて…、でも、匂うというか感じるというか、不思議と当時の風景が想像できるんだ。そして、この患者のその後は?…などと、次々に疑問が湧いてくるんだよ。

もちろん、手術記録は正確に書かなければならないよ。でもそれはカルテの中の文章のことで、記録に残す絵は別に写真のような精緻さなんて要らない、特に今は、全てをビデオで残しているからね。
ただ、手術記録の絵ってのは、それでも大切でね。
まずは絵を見て…、
執刀医がその絵に込めた意味を考えてみる。そして、執刀医の『人となり』をも想像してみる。例えば、印象派の絵を観て、その画家の心象までをも察するようにね。
そして次に、
術後の経過や問題点を思い浮かべる。ひいては、その対処方法と予防策を想像する。何故なら、小児心臓外科は、手技の是非は当然だけど、むしろ終わった後、つまり術後経過を顧みて、そこから新たな工夫を考えることが大切だからな。
要は、手術記録の絵から、『手術となり』を妄想してみるということ、手技を含めて、その手術に何があったかを読み取ること…、そうだな、これが手術を任される前のコツ、つまり‘’前コツ‘’かな。
だから、手術記録の絵は、外科医過ぎずに外科医らしく、面白くないと駄目だと思う。下手でもいいんだ。その方がむしろ色々と憶測できるし、楽しめるからね。結局、そうやって手術の‘’前コツ‘’を積み重ねることが、‘’実際のコツ‘’になるんだろうよ。まあ無理くりな話しなんだが、絵で若手を喰いつかせる訳さ。

そう言えば、お前が出演したあのテレビ、
「自分で書いた字が読めない」だなんて、そんなこと堂々と言うんじゃないよ。すべての外科医があんなもんと思われたら迷惑千万の大騒ぎ、けっこうヒヤヒヤもんだったよ、全くもう。(7000人の命を救ったスゴ腕小児心臓外科医の闘い フジテレビ ミスターサンデー 参照)
でもまあ、ホンマモンの絵心があれば、こうやって外科医なんてやっていないだろうし、未だに女心も判らない俺たちだからこそ、外科医になったってことかもしれないな…。

しかし、決して身贔屓じゃないが、音楽家らしい絵や小説家らしい絵があるように、あのお前さんの絵は、外科医だけが描ける外科医らしい絵と言っていいんじゃないか。少なくとも俺には、お前が最も書き残したいことが、あの絵で判るけどな。』

別にそんな訳分からんこと言わずに、「カルテ調べて、手術ビデオ観ればいいじゃん」と思うのですが、‘’ヤツ‘’にとっての手術の絵とは、とても性に合う、別次元の‘’何か‘’なのでありましょう。
外科医ってのは、
狭い手術室ではイルカみたいに飛び跳ねるのに、一旦外へ出ると、まるで借りてきた猫のよう…、
しかし今宵は、そんな猫が反省もせず、鼠に‘’ちょっかい‘’かけるように小生に話しかけてまいります。
少々飲ませすぎたのかと反省するのですが…、
ああそういえば、昔々のこと…、「お客さん、もうマッコリ品切れです。勘弁して下さい。」
そう店長から注文を断られたのは、ここの焼肉屋だったことをふと思い出して、心から…、心静かに反省したのでありました。

続きます。