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コラム

繋がる 繋げる その六 いのち

暑いくらいの秋晴れ、講演の後に、高千穂の鬼八さんにご挨拶してきました。「渡る世間に鬼はなし」、本当は昔も今も変わらないのですけどね。

さて、今日此の頃というもの…、ファストフードのドライブスルーを作るのに、つつじヶ丘名物の大きな桜の樹を二本もぶった斬る、そんなご時世でございます。お陰様で、「桜切る馬鹿 梅切らぬ馬鹿」の本来の意味を再確認させて頂きましたし、また、切ったご本人は、さすがにその意味を熟知していたんだと確信…、ついついご忖度申し上げたのでありました。

それにしても、このような…、裏切り感とは申さないまでもの超がつくほど意味不明な突然感、分かり易いっちゃあ分かり易い訳でございまして、男が腹をくくるにはこういった「わかりやすい」節目と言いますか、スッパリという音が聞こえるくらいの諦め感もまた「非情に大切」かと、改めて感じ入った次第です。
それに加えまして、これはお陰様ではありませんが…、某温泉旅館での湯上がりに、桜模様のロゴが入ったバスタオルを首に巻いてスーパーマンごっこをする大人たち、そんな誰もが「分かり易い」ことをやってしまうのが外科医の「分かり易い」心意気…、そんな4K映像付きの思い出もまた、不意に蘇ってきたのでありました。
そしてさらに…、申したい愚痴はなんやかんやと膨んでいくのですが、すみません、これくらいで遠慮させて頂きます。

『いのちとは、単に生命を維持することではなく、生きるための知恵を伝えるということ』、これ、誰が言ったか忘れてしまいましたが、確かに名言であります…。
日常の生活もそう、手術もそう、講演もそう、
結局、「手術の知恵は横に繋がり、そして縦に繋げるということ」、もちろん「緩和の知恵もまた、横に繋がり縦に繋げる」ということでして、
はっきり言えば、日本の外科学はそれで進化するしかないと思うのです。

そんな中で、手術に携わる人間は、
「他人からして貰いたいことを他人にしてあげるだけ」、それを早めに感じ取ることができれば、それは運が良いと思うべき…、
「他人からして貰いたくないことは他人にしないだけ」、それをも早めに感じ取れるのであれば、それはもっと運が良いと思うべきでしょう。
そして、手術チームの運を作るために最も大切なこと、それは…、
「他人にしてあげたいことを真心込めて考えること」、
つまり、世間の欲求に答えるためだけに動くのではなく、自分がしてあげられることの真意を見つけ出すこと、そんな風に思います。
ですから、緩和においては、何処かに住んでいる「どちら様」という存在は役に立ちません。今ここにいる「貴方様」が必要なのです。同じ場所にいるから背負う荷物も半分になる、重過ぎたら近くの誰かに渡せばいい…、
そんなことを時たま想像することができる環境…、それがチーム医療なのでありましょう。

さて読者の皆さま、小児心臓外科医は、「昇る太陽と沈む太陽、その隔たりとは何ぞや?」、そんな何の役にも立ちそうもない回答を探してばっかり…とお思いになるかもしれませんが、実はその通りです。
例えば、この東京砂漠の夏初月の宵…、仕事帰りの道筋に立つ一本の街灯に照らされた零れ桜たち、そんな風景の下において、
知らない人に対しても「グッドラック」と背中を押したくなる…、
そうすればユルリと、心にある重石が降りそそぐ花片に吸い込まれていく…、
そうですね、そんな儚い幻想が生まれることに…、『いのち』を懸けているのです。

続きます。