Doctor Blog

コラム

夏が来れば思い出す その二

『弘南路線バスは西方面へトコトコ、昨夜の御神酒の余韻に浸る小生を揺らしております。
ふと目線を上げますとそこには、幼稚園児が一色の絵の具だけを使って塗りたくったような青々空、
「よぐ来たじゃ、おはよう津軽!旅の恥はかぎなげ~」、ちょっとだけ一本背負い風に叫んでみます。
「いいね、実にいい…」
そしてその約40分後、小生を乗せたバスは、岩木山神社前から百沢温泉へとカーブを取り、そして獄きみロード(とうもろこし街道)へと順調に滑っていったのでありました。』

読者の皆さま、ごきげんよう。そう今僕は岩木山修行登山の道中、青春真只中なのであります。
「登山なのに何故バスに乗っている?」という皆さまの不審感はごもっともでございますが、ここは縄文の聖地、そんな近代的な小さなことは「考えない考えない」、爽やかな風と獄きみの香りに誘われて「一休み一休み」、そんな気分なのであります。
さて、もうそろそろでございましょうか、津軽岩木スカイラインへのシャトルバス、乗り換えバス停が近づいてまいりました。
実を言いますと、8合目まで、乗合自動車という文明の利器を用いるという安直な算段、既に整っているのです。
さてさて、そうこうする内にバス乗客は小生一人と相なり、「貸し切りだぜィ」の思いッきしのドヤ顔、サングラスの下で一応やってみたのでありました。

乗り換えのバス停が見えてきました。
「おッ、誰もいない」、「やはり祝福されている」、「今日の岩木山は独り占めだぜィ」、今度は改めて、思いっきりニヤけながら愛用のリュックを担ぎます。
でもでもでも、PASMOにて精算しようとした矢先、そのちょっと後のことでした。運転手さん、アレッというような怪訝な表情を呈します。そうです、何かが変なのです。
まるで、小生が乗っていたことすら気づいていなかったような…。(実はそうだったのです。「打てば怪しげに響く」とはこんな人間の表情を示すものなのでしょうか?もちろん鳴るのは梵鐘だけでしょうけど…)
それからの運転手さんと小生との二人だけの会話は、蝉たちの声シャワーにかき消されながら…、あたかもすべての理解がお互いの眼の動きと頷きだけで成り立つという…、確かこんなような、察するに余りあるものだったと記憶しております。

「ここは枯木平終点です。」
→ はい、有難うございました。
「30分後に弘前駅へと戻ります。」
→ ああそうですか、運転手さんも大変ですね。
「ところで、今からどちらへ?」
→ スカイラインのシャトルバスで山頂へ。
「それは4つ手前の獄温泉で乗り換えでしたよ。」
→ ???
「…しょうがねえなまったく、まだ間に合うかもな お客さん座って。」
→ ……。
運転手さんは直ちにバスを発車させ、2つ前のスカイライン入り口のバス停まで戻ってくれたのです。さすがにドリフト走行はありませんでしたが、その運転する後ろ姿はまさに「バスの神」、大きくハンドルを回す二の腕は逞しく&神々しく、オーラを放っていたのでありました。

「次からは気をつけるんだぜ、べいびィ。ハブアナイスデイ!」(津軽弁で少し聞き取れなかったのですが、確かこんな意味合いだったと思います)
→ ……、さすがは縄文の里…ありえん、そしてなんかよくわからん。でもこれでええんかいな?
(料金は要らないとのこと、恐縮至極、我が家の愛犬がおやつをねだる時の眼で甘えさせて頂きました。)

さてその約5分後のことです。恋い焦がれたシャトルバスが逃げ水の端境を上に下にとユッタリバタフライ、モグラたたきの如く登場したのであります。徐々にエンジン音が高くなっていきます。
当然のこと、運転手同士、連絡は取り合っているはずなので…、
すべての過去を精算し、何事も無かったかのように眼をそらしながら手を挙げる、ほんのりと頬を染めた小生…、
何故か不思議とそのシャトルバスは、あの虎皮模様の「ネコバス」に見えたのでありました。そう、今の気分はまさに「サツキ」です。そうしますと、あのハブアナイスデイの運転手さんは、…「トトロ」、ってか?

いやぁ~、それにしても此処は流石に期待以上の縄文神々の里、例に漏れず、お助けする神さまがいらっしゃるのでございました。
もちろんこのバス停からの乗客は皆無、バス車内もこれまた運転手さんと二人きり…、
でもさすがにモチのロン、「思いッきしのドヤ顔」は、頬の熱感とともに丁重にご遠慮させて頂きました。

続きます。

あの時の弘南バスの運転手さん、もしもこの万人に愛されようとしているブログを見ていらっしゃいましたら、この場を借りて篤く御礼申し上げたいと思います。
そういえば、広島県某山登拝にて遭難しそうになった際には、軽トラックに乗った猿田彦大神に助けられた記憶がございます。とても話好きな神さまで、山頂の山荘ではお茶をご馳走になり、またお土産も頂きました。
そしてまた、酷暑の某月某日お伊勢巡礼、バスを逃してキャリーバッグを引きずり歩く伊勢道路の小生、この時は4ドア軽乗用車に乗った二柱の女神さまのお助けを賜り、伊雑宮まで送って頂きました。
最近の巡礼旅、何かと拾われることの多い今日この頃でございます。初期高齢者には人情と神頼みだけが頼りなのです。