羞恥心.com Chapter2
網走湖東岸を北上する特急オホーツク号、湖畔の残雪は既に無く、春らしい軽やかな気配が漂っております。
そして例に漏れず、目の前にある大吟醸一夜雫の四合瓶は、瓶のみの軽やかさになっておりました。
ほぼ真南に位置するお天道様、その視線が気になるところではございましたが、
小児心臓外科医が唯一自慢できる「新たな環境へのフレキシブルな順応性」、言葉を変えれば「臨機応変の飽きやすさ魂」は、この網走、「寅次郎忘れな草」の地においても如何(遺憾)なく発揮されたのです
あの旭川で生まれた懐かしき「罪悪感&羞恥心」は、車両ドアが開く音とともにことごとく霧散したのでありました。
さて、前々回申しました「ボッチ羞恥心事件」でありますが、今ではもう往年のアーカイブヒストリー、既に恥も外聞も消え去っておりますので、サラッと淡々、お噺しいたしやしょう。
それは、網走オホーツク流氷館、マイナス15℃の流氷体感テラスでの、濡れたタオルを凍らせる「しばれ体験」での一コマでありました。
テラス内は、周りを見回しても小生ただ一人、アザラシの剥製が横にあっても一人、咳をしても一人、流氷の後ろを確認してもやはり一人、ボッチボッチ、フフフ、フフフ^^♪…、
「俺がやらねば誰がやるという使命感」が、羞恥心という概念を余すところ無く完全にスルーして湧き立ったのであります。
そうそれは、今回の哀愁一人旅での最大のミッション、
「タオル凍結with『羞恥心』dancing」…、そうそれは、今しかない!
しかし、このテラスは極寒の世界…、もう時間がない…、生きて帰らねば…。
『羞恥心』長男のつるのさんにお断りの電話をする間もなく、中途「ドンマイ」から始めさせていただき、時の過ぎゆくままに、振り付けはあの最終のサビ、お待ちかねの「シューチシン」へと順調に突入したのでありました。
おーっと、リアルガチでタオルが固まった…、ゆきちゃん感激…、と思ったその刹那、
…うん?何か変…、えっ、何?どうしたの?視線を感じるのです。
う~ん、ここはマイナス15℃の凍てつく世界、当然のごとく必要不可欠な安全対策は必ず存在しているはず…、
そうでした、やはりここにはお約束の監視窓があったのです。小生のような南国出身者がたまにやらかすであろうテラス内遭難に備えた、決して小さいとは言えない大窓が…。
こっち側の小児心臓外科医と、あっち側の流氷館の女性職員、窓ガラスをはさんで見つめ合う4つの瞳…。
その時の前者…、
左右にゆらぐ2つの瞳は、ひたすら必死に出口を探しております。心に湧き出た「やっちまったな」という『自己への羞恥心』は、Heart of Glassの中で、タオルと同様に瞬間氷結してしまったようです。
…前者は申しておりました。約2秒間ほどだったそうですが、今度はもっと心を込めてNG&羞恥なく歌わねば!という「妄想的羞恥心」を、あたかもレコーディングスタジオで一流ディレクターと対峙する超一流ミュージシャンのように、ただただ強く感じていたと…。
一方の後者…、
確かに両目じりには光るものが見えておりました。しかし決してそれは何かに耐える泣き笑いというものではなく、
グッと握った両こぶし、悲しげに黙って微笑む緩やかな2つの瞳…、もちろん拍手は致しません、ブラボーの声もありません。
がしかし、その瞳の中には、「恥ずかしいなコイツ」というような『いと恥ずかしの他者への羞恥心』は一切無かったのです。
その瞳を見つめる前者が勝手に空想するに、後者の心の中には、
「それは誰もがやることなのよ」、「私も昨日ついつい踊ってしまったのよ」、「おかげで今日は少々腱鞘炎」「あなたの振り付け、気恥ずかしくなるくらい上手かったわ」というような、気遣い的かつ共感的な『他者への、かはゆしの羞恥心』が包括的に存在していたのではないかと…(恐らく間違っているのでしょうが、間違ってなくてもごめんなさい)。
結果、前者のHeart of Glassは瞬く間に氷解し、足早ながら威風堂々の所作にて低温テラスから生還を成し遂げ、小児心臓外科医の矜持を貫くことができたとさ、めでたしめでたし…。(何のこっちゃ)
でもまあしかし、この油断なる稚気チキ小児心臓外科医、ホンマモンの流氷の世界ではご多分にもれず、真っ先にシロクマさんに喰べられる存在なのでしょう。
続きます。
左側がステージの花道となっております。この写真を見ると、何故か今でも少しだけ頬に熱を感じます。